今回は「理-コトワリ- ~キミの心の零れた欠片~」のレビューです。ぶっちゃけ埋もれちゃってます。
評価(☆→★→◎→○→△→×)
シナリオ◎ これまでのブランド色を一蹴しましたね。
グラフィック◎ ふさたか式部さん。昔は、C:drive.は克さんというイメージがありました。
エッチ◎ 上々です。
サウンド・ボイス★ ボイスの安定感は随一。
ゲームシステム○ 並。バグとかはないですね。
『催眠生活』をダーク系エロゲーのアルビノとして見るならば、『理―コトワリ―』はC:drive.のアルビノとして見ることができるかもしれない。とにかく不気味な存在感がある。決して華々しくはないが、C:drive.の新たな側面を見ることができるユニークな作品である。
かつて私は、『催眠生活 ~校則だから仕方ない!?~』(C:drive.)のレビューにおいて、「カラスの中のアルビノ」と作品を評したことがある。
かの作品は、従来の催眠モノとは一線を画した、前例のない型破りの催眠モノ。努めてダークな感じを想起させないとあって、数ある催眠モノの中でもひときわ光彩を放つ存在となっていた。実に催眠モノらしからぬ作品だった。
ところが、今作はそれにも増して進境著しい。
『催眠生活』に催眠モノとしてのアルビノという価値を見出すならば、この『理―コトワリ―』という作品には、C:drive.諸作品のアルビノという箔がつくだろう。それほど異端であり、革新的であり、斬新である。
ちょっとわき道に逸れてC:drive歴代の諸作品を見てみると、シナリオに力点が置かれていた作品はほぼ皆無と見てよい。その軌跡を辿ってこの作品に行き着くと、もはやC:drive.としては非常に不可解な作品というほかない。
シナリオという果肉がぎっしり詰まった果実は今までになかった。それほど方向転換著しい作品なのだ。不退転の覚悟すら見受けられる。
◆シナリオ◆
他のC:drive.諸作品と比較すると、かつてないほど力点が置かれている。ただ、それもC:drive.の中だけの話に留まるため、大海に出ては中の中から上の下といったところか。
5つあるシナリオの中でも、とくに
みなもルートが白眉。 エロゲーのヒロインには転生シナリオがままあるが、これは感動させるための免罪符と成り果てて早い。ところが、この作品のヒロインの一柱であるみなもは、ヒロインのまま消え果てる。残酷なまでに覆水は盆に返らない。萌えゲーが世に溢れる今だからこそ、このシナリオには見るべきものがあるように思う。途中まではずいぶん愉快なシナリオだと、内心で冷や汗をかいていた。事が急転直下してからが見ものだった。みなもの突拍子のない行動も、唐突な局面も、
全てを洗い流すパワーがこのシナリオにある。 みなもの特殊な立場が活きており、エッチシーンもイメージプレイを意識したつくりとなっている。
初夏は声優さんの演技に助けられる形で波に乗った印象。コトワリに対するアプローチの方法が最も気に入った。山梔子という理が、物語に適度な‘動’を与えてくれており、
読後の余情はなかなか。 ただし、
エッチシーンを見ると一人だけ浮いている。【エッチ】の項にて後述する。
この二本とはうってかわって、悠基とあやめの二本は期待したほどはピリッとしない。あやめルートは根本的に強烈な印象に欠ける。これに対し、悠基は物語のコアという大役を担っていながら、他の個別ルートと幹の太さが同じに思えてならない。説明的になりがちなのが玉に瑕か。
いずれの物語も決して完成度が低いとは言えないが、みなもシナリオのレヴェルまでは到らない。もう少し作りこむべきだった。
清見はなんというかご愁傷様。箸休め程度と考えて差し支えない。
全体的にはそこそこまとまりを見せており、みなも・初夏両シナリオのあっさりとした読後感は一定のセンスを感じさせる。しかしながら、登場人物同士の絡みの少なさ、特定のルート間で見られる若干の設定の齟齬など、細やかな調整を要する箇所は不得手だった様子。オムニバス調という利点を有効に活用して押し切った印象だ。
その証拠に、
物語の導入部分は過去最低レベル。あまりにも唐突がなさ過ぎて、当初は強引ぐまいうぇいっぷりばかりが癪に障ってしまった。
たしかに、この作品を新たなC:drive.の門出と受け取ることもできよう。しかし、これを一線級と見るのは難がある。素材と着眼点は誉めるべきだが、総括すると手放しでは喜べない。
◆絵◆
筆の早い(という印象がある)ふさたか式部氏。今作も、実力を如何なく発揮されている。立ち絵に顔芸ならぬ手芸(てげい)があった点には驚いた。
ところどころ立ち絵が独特だが、これはこれで見るべきものがある。エッチシーンの体位はなかなかアクロバティックな構図が多く、シチュエーション自体もノーマルなものから変態チックなものまで取り揃えてある。視覚的に楽しめるだろう。
ただし、
ヒロインの下着がどのシーンも変わらないのは残念。エロゲーなのだから、ヒロインのぱんつのバリエーションにはさらなる深い熟慮が必要である。ぱんつを足に引っ掛けたままのエッチシーンもかなりあるので、どうしても色の部分で代わり映えしないぱんつがネガティブな方向に目立ってしまう。これはかなり・・・・いや、実にもったいない。
それはともかく、私が『催眠生活』の第一印象で受けた“中庸的”という印象は相変わらず。白黒を問わず、この方は手広くやっていけるだろう。ロリゲーには向かないかもしれないが。
◆音楽、声◆
テーマ曲はオープニングと各エンディングをあわせて6曲。
目に見えて注力している。 初夏EDの「キズナ」がどことなく民族音楽調でお気に入り。みなもの「一度きりの交換日記」は曲の流れるタイミングがいい。ともに穏やかな気持ちになれるだろう。オープニングの「カケラ」もイントロが一風変わっており、全体的に記憶に残りやすい曲が多い。
声優陣は実力派を擁しているだけあって、
文句のつけどころがない。とくに聞き苦しい点も見当たらない。初夏の演技に労苦のあとが見受けられる。
◆エッチ◆
回想数24。流石にシナリオを重視した弊害か、絶対数としては『催眠生活』からは半減してしまったが、それでも数量、尺の長さは抜群だ。もともとエロに関しては定評のあるブランドだったので、プレイ前に不安視していた部分はなかった。
ところが実際にプレイしてみると、一点だけ綻びが出ているように思われる。
いかにエロに強いブランドとは言え、この物語において、
ラリってる感じのするテキストが散見されるのはいただけない。ライターによる相違かどうかは判断しかねるが、凌辱ゲーにありがちな「おほおぉぉぉぉぉ」といったテキストは、このゲームでは場違いも甚だしい。不始末では済まされないと思われる。
なお、着衣シーンがやや多いのが特徴で、前述のラリ風味のテキストとぱんつの一件を差し引いても、なかなか高次のレヴェルでまとまっている。アナゥーや連発もいくつかあり、尺の長さも程よい。
抜き方面はなかなかだった。
◆総評◆
まず間違いなく、埋もれた作品と化していることは疑いない。C:drive.らしからぬ作風がユーザーに受け容れられなかったせいか、巷の声もかなり寂しい。挑戦的な作品ではあるが、順風が吹いていない現状は気の毒で仕方ない。
これを萌えゲーと評するのは難しい。みなもルートは実に残酷だからだ。その反面、いちゃラブ成分もふわりと乗っけてあり、どことなくいいとこ取りをした作品ともとれる。
一見すると、闇鍋のように見えて敬遠しがちだが、あくまでもそれは見せかけに過ぎない。実に玄妙な味わいのする作品に出会った思いだ。なにぶん
玄人受けはいいと見る。