のレビューです。思った以上に長くなってしまいました。視覚的にはいい感じの作品ですね。
このレビューから、パッケージサイズを明記することにしました。最近は、エロゲーの“箱”の部分に興味が出ており、もしかしたら、それだけで文章を書くかもしれません。
では、レビューをどうぞ。評価別カテゴリの、ボイスとサウンドを分割しました。
【パッケージスペック】
・大きめのB4サイズ
・冊子つき
・透明スリーブ付き
・ディスク2枚組
・特典CDでモブキャラを攻略可能(評価査定外)
評価(☆→★→◎→○→△→×)
シナリオ△
グラフィック◎
エッチ○
サウンド○
ボイス★
ゲームシステム△? 賛否ありそうなシステムです。パイオニアではあるんですけど・・・。。
決して主人公が向き合うことのないモブキャラの、二次元におけるその声を主人公と向き合わせた意欲作にして実験作。こう言えば聞こえはいいが、そもそもこういった外野の声は、批判も擁護も過度に感じないから、ただの“ざわざわ”で済むという話だ。世界が自分を中心に回ってるにもかかわらず、その世界の住人から疎まれていることが実感できるのは問題。ちやほやと嫉妬を履き違えた極致である。
「優越感に浸る」という言葉があります。文字通り、自分が相手よりも優れていることを認識し、満足感に浸る感情のことです。エロゲーの主人公というのは、しばしば本人が感知しないところで自身を中心に世界が回っておりまして、我々読者の側としては、時おり主人公と自身とを都合よくリンクさせて、優越感を得ているわけであります。(もっとも、その得方は、作品によって異なりますが)。
このゲームでは、その圧倒的なまでの自分中心主義が、最大の魅力と言えましょう。どう転んでも、“TOP OF THE WORLD”というおいしい立ち位置は変わらず、右を向いても左を向いてもかわいいヒロインたちと一緒のハーレム生活。学園ものらしく、かなり王道的な展開が続きます。この作品では、モブキャラと比べて、主人公の立ち位置は明確に厚遇されており、優越感や満足感を得るための、“誰に対し”の部分がより強調されています。
こう説明すると、学園ものとしては右にも左にもぶれない、正道を貫いた作品のように聞こえるかもしれません。
まあ実際、このゲームは普通の学園ものとしてありがちなイベント・・・・・・一例を挙げると、お弁当タイムの「ア~ン」とか、着替え中にうっかりといった眼福ハプニングとか、ちょっぴり背徳的な校内えっちとか、そういった萌え萌えなイベントには事欠きません。
今回は、主人公に対するヒロインズの好感度もあらかじめ飽和状態間近に設定されているため、主人公とヒロインズは良好な関係を築いているという大義名分の下に、物語の幕が上がります。くっつくのは時間の問題という都合のいい設定は、こと学園ものでは些かズルい気もしましたが、それを差し引いても、純愛劇としては
HOOKさんの“味”が十二分に滲み出ていると思います。
ただし、これまでの長期的とも言える戦略によって、慢性的な問題も出てきているように見受けられます。
「Like Life」の頃から見ていると、「学園もので何ができるか」試行錯誤してきた痕跡は見て取れるのですが、初期と比べて学園ものの王道へ王道へと驀進している気がします。
良く言えば安定感が増したと言えますし、
悪く言えば魅力的だった粗さがなくなってしまったと言えましょう。
こと「_summer」のような波風立たない「のほほんとした物語」に至っては、“薄味のHOOKさん”というイメージを定着化させつつあ・・る・・・・・・・・・・・・あー、いや、これはもう定着している感が強いですね、自分の中では。
いやまあ、四海波静かを体現したシナリオが一概に“悪い、つまらない”とは決め付けられないのですが、そういったお話は大体が薄味然としていて、私個人としてはどことなく
物足りなさを感じていました。これまでのHOOKさんの作品は、まったりプレイが基本路線だったので、“いつものHOOKさん=のほほん”という印象は作品をプレイするたびに強くなっていきました。
いまや、HOOKさんの長所と短所は表裏一体化しているのかもしれない、と感じていたわけであります。
「学園物としてこれまで培ってきたものを昇華させ」 (HOOK 公式ホームページ 「_summer」 INTRODUCTION より)た結果が「_summer」だったり、「Sugirly Wish」だったりと、これまでの実績を考えると、とてもじゃないですが、後継作には改善の余地があると考えていました。とにかく歴代のHOOK作品はイベントの高低差が極めてゆるやかで、我々は気づかぬうちに最高地点へとたどり着いてしまい、あれよあれよという間に終わってしまう。
物足りないんです。
高低差に乏しいということは、即ち緩急差をつけづらいということであります。ゆえに、物語を読んでいて、スピード感が得にくいのです。ヤマなき山は山にあらず、といったところでしょうか。
基本的に純愛風味の学園ものは、善人の、善人による、善人のための物語なのですから、派手なイベントが敬遠される傾向にあるのは承知しています。とは言え、「王道にはコレ」というレールに沿ったイベントばかりを並べられると、
角ばった印象を受けづらい一面は拭えません。
そのため、今作で導入されていた「PITシステム」なるものには、アクセルとブレーキといった緩急を御する役目を期待していました。
未プレイの方に、PITのご説明を少し入れておきます。
ここで言うPITというのは、「作中BBS」と「メール機能」を持った携帯端末を指します。作中のイベントおよびテキストの進行とリンクして、掲示板で名も姿も無き有象無象のモブキャラが発言したり、ヒロインから個人的にメールが来たりします。
別にこれらは必読というわけではなく、すっ飛ばしてもクリアに支障は無いんですが、そうすると、“いつものHOOKさん”になってしまうのは容易に知れました。より深く物語に没入できるのではないかという淡い期待を持ち、じっくりと読み進めていくことにしました。
ところが、物語を追っていくうちに、不満がいくつも出てきてしまったのです。
まず、このPITには、
時間という意味でリアリティを与えすぎていました。
仮想世界でのPITでは、現実世界におけるチャットのように、誰かがテキストを打ち込んではじめて、発言が反映されます。ゲーム内では、主人公が誰かと話している間にゲーム内でリアルタイムで更新される・・・・・・・つまり、我々が左クリックをして次のテキストを読んでいると、ゲーム内のモブキャラ君が発言をしているのです。
オーソドックスなエロゲーでは、
例:主人公の発言 →(クリック)→ 地の文 →(クリック)→ ヒロインの発言 →(クリック)→ 主人公の発言 →(クリック)→という風に、我々が手動で左クリックしてから、次のセンテンスに入るのが通例です(オートモードは、クリックしないで済みますが)。
ここで何故このような説明をしたか。このゲームでPIT画面を閲覧するには、右クリックをするかショートカットキーを使うより他に方法がしかありません。我々が手動でPITを開いて、わざわざ確認しなければならないわけです。
そのため、PITまで全てリアルタイムで読もうとすると、PIT内の掲示板の書き込みが更新されるたびに右クリックを強要されることになります。主人公の周囲がざわつけばざわつくほど、周りもそれに呼応して意見を出しまくるため、当然ながらPITの更新速度も加速度的に上がるんですが、そうすると物語の本筋を断続的にしか読めなくなります。
これでは、
快適なプレイ速度が著しく阻害されてしまい、読む力を減退させてしまうのは明らか。大いに難があると言わざるを得ません。
しかもこの過去ログ、
場面転換によって消滅してしまうので、後からまとめて読もうとして読めなくなることもままあり、非常に使いづらいシステムと化しています。ちょっとずつ読んでいくにしても、画面にお知らせが表示されてから更新されるので、気が散るったらありゃしません。画面の端にテキストを表示するなど、利便性を追求してほしかったですね。
また、このモブキャラの発言が2ch然としていると言うべきか、ライターのマスターベーションの一部と化してる言うべきか、どうしても発言内容、言い方が生理的に受け付けませんでした。
そもそもPITという学園専用の掲示板の「住人」が、「くぁwせdrftgyふじこlp」や「トンクス」といったスラングを日常的に使っていることからして甚だ疑問です。ただし、真理はその手のスラングを多用する、しないの問題ではありません。
さて、冒頭で述べましたように、我々プレイヤーは物語の主人公・・・・・・この場合は「羽戸晴太郎」に、自身を大なり小なりリンクさせているわけであります。なので、当然、自身の分身である羽戸晴太郎の事は、もはや他人事とは受け止められない。
もう分かりますよね。
私が最も気に入らなかったのは、掲示板が羽戸晴太郎とその周りの出来事で埋め尽くされてしまった事にあります。彼らモブキャラのうちの誰かが、主人公の行動を一から十まであまさず監視し、掲示板に書き込んでいるという事実。それに嫌気が差してしまったんです。
“【羽戸晴太郎】今日の生態【ぽっぽ】スレ”とでも形容すべきでしょうか。一個人の行動を、自分の知らない・・・いや、もしかしたら知っている誰かが掲示板で嫉妬したり、羨ましがったり、罵倒したりする。そこに、えも言われぬ気持ち悪さを感じます。
これは、
有名人に張り付いてゴシップ記事を書く記者とよく似ています。主人公という有名人を追っかけてネタを書き込むという点では、やってることはそう変わりません。「世界は自分を中心に回っている」という物的な証左が、逆に不快感を募らせる原因となりました。
端から見ると、主人公を中心に学内コミュニティの話題が上がっているような感覚を覚えるため、そこで優越感に浸るプレイヤーもいることでしょう。しかし、そうやって書かれた記事を主人公自身(我々)が読んでいるという構図には、あまりにも滑稽すぎはしませんか。
しかも、いくら悪口を書かれようが、嫉妬されようが、そんなのはどこ吹く風。この主人公は、
文句の一言も言わないという聖人君子ぶりを発揮してくれます。この掲示板を閲覧しているというのは、いち学生である主人公も同じはずなのに、そこからのレスポンスが全くないのはどう考えてもおかしい。
私個人としては、ある種の理不尽な叩きに遭っている感もあり、憮然とした気持ちになりました。このPITで表示される内容が主人公関連の話題ばかりでなく、たとえば関連性の薄いイベントだったり、脈絡のない話題だったりしたら、また話が違っていたでしょう。
ちやほやされているというよりも、どことなく監視されている気がしました。とくに、
男の嫉妬は誰がやろうが見苦しいと昔から言われており、これを見た私は、優越感に浸るよりも先に呆れてしまったのです。
また、Xという出来事が起こると知っているからこそ、ライターはそれに関連付けて、予めそのイベントの発生地点にモブキャラを配置しているんでしょうけど、「おい、○○がそこにいるぞ」的な、
偶然を装っているパターンがあまりにも多すぎるのが気に入らない。どこにいても、“モブキャラカメラ”がそこに設置されているんです。とくに、みかもルートではこれが顕著ですね。
そんなストーカー状態のPITも、エッチシーンになると主人公側としては空気を読んでくれたかのようにピタリと止まるんですが、これでどういうわけか爆笑してしまいました。
自分を中心に世界が回ってしまうのがエロゲーの主人公の常であるとは知りつつも、結局、性別も性格も容姿もわからないモブキャラの嫉妬や追っかけを一身に受けていることに気づいてしまったが最後。プレイ中にもかかわらず、素に帰って興が冷めてしまいました。
この認識の違いは、如何せん埋めがたく、自ずと評価に現れてしまいます。
シナリオが平坦な分、何か変化を持たせようと試みたのがPITシステムだと結論づけました。
それ自体は、「保守色の強いブランドとしては、思い切った冒険をしたものだ」と15/20へぇくらいはあげても良さそうな進歩でしたが、パイオニアが辿る末路というものはいつだって厳しい。悪くはないんですが、お世辞にも誉められたものではなく、さらなる改良が望まれるあたり、せいぜい10へぇくらい。なんてったって、このシステムを強引に使う必要が無いことからも、不具合っぷりが暗に示されているのは、いかがなものかと思いますから。
たぶん、
情報量としては従来の作品より多めなんです。
物語を多角的、二重的に見れますし、本来ならシナリオの海の藻屑となっているであろうモブキャラの発言を、わざわざPITという錨で引き上げていることからして、情報をプレイヤーに供そうとする姿勢が見て取れます。
ただ、ここで問題なのが、それが絡み合わなかったり、空気を読んでなかったりすると、せっかくの情報が、一瞬にしてスペースデブリや断片化されたファイルのごとく、
迷惑千万な存在と化してしまうこと。なんというか、情報を情報として創ったまではいいんですけど、「とりあえずプレイヤーの前に出してみました」というおざなりな感がプンプンとして、出された側としては扱いに戸惑ってしまうんですね。ライターは
情報を創るところまではよかったものの、それで満足してしまったか、その整理をする前に力尽きてしまったために、このような「見なくてもよい情報」がデブリのように散らばってしまっている。こうなると収拾がつかんわけです。せめて、料理してから出してほしい。
周回を重ねるごとに、PITの効力はおろか、存在感すら希薄になっていく様はまさに諧謔的。ヒロインからのメールにしても掲示板のレスの応酬にしても、「その発言で、物語が予測もしない方向に転ぶわけじゃないから、結局、見ても見なくても同じ・・・・・・もう“ドウデモイイヤー”」と無意味さ加減に気づいてしまうと、PITの文章は一瞬にして瓦礫と化します。
メール機能は主人公が返信すらしないので、一方通行の情報を与えられたに過ぎず、コミュニケーションツールとしての用をなしていません。最終的に、私はメールが来ようがPITが更新されようが、某提督のごとく「それがどうした!」と一蹴しておりました。
さて、PITを取り去ってしまえば、後に残るのは“いつものHOOK”のお家芸。全体的に起伏に乏しい純愛劇です。それを「何も起こらない物語」として敬遠するもよし、「優しい物語」として受け容れるもよし。とくに物語の根っこの部分からは、先鋭的なものを感じ取ることが難しいだけに、この作品は、キャラゲーとして、作中の雰囲気を味わうのが正しいのかもしれません。
また、いちゃラブっぽさを漂わせていながら、これがまあ、実にチープでなかなか全力で楽しめない。主人公の特徴と言えば「料理に始まり料理に終わる」といった体たらくで、ヒロインが一堂に会する理由が、主人公の人となりじゃなくて、料理というのが導入として実にズルい。1年もこの状態を続けていたという設定には、もはや賞賛すら通り越してしまいますね。
穂海ルートのSFは蛇足ですが、それにも増して、みかもルートは適当にも程があります。
クライマックスはもう噴飯ものです。エッチシーンでは主人公がお殿様に君子豹変しており、シンクロに難儀することでしょう。
HOOKさんの学園ものという定礎は、なにも今に始まったことではありませんが、私個人としては、もっとシナリオという面で飛躍してもよかったように思うのです。今後、「睡眠導入剤」と揶揄されるHOOK風味の物語に、なんらかの変革があったとしたら、それはそれで興味をそそられてしまいますし。
まあいずれにしましても、
テキストとシナリオだけは“いつものHOOKさん以下”だと、私は結論付けておきます。
さて、そんな“いつも以下のHOOKさん”も、
普段よりエッチは頑張っていたように思います。失礼ながら、数字的にはこのブランドさんとは思えないほどの充実ぶりでした。SMEEさんのラブラブル成分が少しだけ伝染ったか(当たり前ですが)のような、HOOKさんにしてはそこそこ濃くなったエロ。オマケを入れた回想数が40オーバーというのはいい数字です。
ただし、当の
エッチシーンの挿入箇所が適当すぎるのが難点。怒涛のようにエッチシーンが続き、そのままワケの分からないエピローグに行くみかもルートをはじめ、大半のルートは、恋人その後のイベントとして入れられそうな展開で入れてみました・・・・・という相変わらず緩急に欠けるアバウトさ。つまるところ、お話とエッチが根っこの部分で分離しちゃってるんです。そのせいで、主に
実用面で破綻している気がするんですよね。回想で使うこと前提という気がしました。
また、お下品で変態チックにならないところが、このブランドの突破できない壁であり、どこか突き抜けきれないところに、
逆に安堵感を覚える始末です。
システムは、やっぱり
PITが特段に難アリとを言わざるを得ません。セーブ機能やバックログには特に問題ないんですが、このシナリオ構成で
選択肢スキップ機能が配備されていないのも不親切。痛すぎます。
音楽面は、余談を除いて並ですね。雰囲気は出てますので、
作中BGMとして縁の下の力持ちの役割は果たしているかと。
やりたいことが全て空回りしているゲームでした。
冒険していながら冒険できていないような微妙な作風が、いかにも奥手なHOOKさんらしいです。「勇み足+腰くだけ状態で黒星がついた力士」のようで、なんともフォローしづらいものがあります。
結局のところ、純でベッタベタな学園ものを描こうとしたわけではないのに、いつもと変わり映えがしないどころか、より微妙になっているという印象は、最後の最後まで拭えませんでした。それでもまあ、悪くはないんですけどね。
【雑記】
音楽の余談。タイトル画面の曲が“らしくない音”だったなあと。
なんだか「機械仕掛けのイヴ」で鳴ってそうな曲でした。
Nautsというよりも、PITという意味合いでNotesや、
ヒロインとの出会いと意味でKnowtsとしたほうが良かったような気がします。
前者は自虐的ですけど。