のレビューです。
Next→「ChuSinGura46+1 -忠臣蔵46+1- 百花魁編」の予定です。双子魔法組曲ですが、プレイし足りないまま書くのもなあと思い、もう少しプレイしてから執筆できればと思っております。
ところで、ChusinGuraは、一年ほど前から僕のイチオシのシリーズものです。シリーズ3作品までリリースされ、商業化も発表されましたので、そろそろレビューさせていただこうかなと意気込んでおります。ま、この話は、別の機会にでも。
では、「古色迷宮輪舞曲」のレビューをどうぞ!!(と言ってる割に、たいしたものではない)
評価(☆→★→◎→○→△→×)シナリオ★
それ自体はいいんですけど、システムの出来に引っ張られてる気がします。いい意味でも悪い意味でも。
グラフィック△
ここはもう少し頑張ってほしかった。努力賞。
エッチ△
エロくはないです。読み物という隠れ蓑があるせいかな。
サウンド○
可も不可もありません。悪くはないです。
ボイス★
はまってます。サキ役の藤森さんがいい感じ。次点は雪村とあさんかな。
ゲームシステム◎(☆
未完成の感が強い、荒削りなシステムです。フローチャート、運命量、キーワードを投げるシステム……どれをとっても安定感が足りません。
いま一度えろげゑをせんたくいたし申し候。
◆◆◆雑多な評価◆◆◆
・ループものを称する割には伏線の回収が大雑把で、精緻には作りこまれていない。全ての疑問に対する答えを用意しておらず、伏線を隅から隅まで回収しているとは到底言いがたい。なんらかの理由で答えを用意できなかった可能性も否定できないが、いずれにせよ、完全無欠とは言いがたい内容だ。
・CGに崩れが見られる。たとえば、舞が書き物をしているCGに違和感があった。錯覚かもしれないが、ノートを斜めから書いているように見える。そんな人はあまりいないだろう。
・濡れ場も昨今の増加傾向に反して、10シーンと少な目……いや、はっきり言って足りない。そもそもエロ絵がエロく見えないのは致命的だし、当の濡れ場が挿入されている箇所が、唐突に過ぎる点も難あり。エロゲーであることを疑問に思うほどだ。エロゲーならば、エロを疎かにすべきではない。
・スプラッター要素がある。CG自体は他のスプラッターと比べてラフな傾向にあり、必ずしもキツいとまでは言えないハズだが、僕はここらへんの描写に耐性があるので、もしかしたら気分を害する人もいるかもしれない。苦手な人はとことん苦手なスプラッターだが、これでも画風のせいで緩和されている気がする。このような要素がある作品の中では、門戸は広いほうだと思う。
・曲目数は少ないものの、音楽の質はいい。サウンドモードは近日中に搭載とのこと(開発日誌参照)。この修正対応は悪くない。
お世辞にも、システム面でも、ビジュアル面でも、シナリオ面でも質がいいとは言えない本作。もう少し頑張れば改善できそうな余地を残しているにもかかわらず、敢えて是正しなかった雑な一面から、不親切なものづくりを想起させます。しかし、それ以上に、サウンドモードすら搭載してなかった点から、厳しい製作環境の方を推し量ってしまいます。
また、誰が読んでも説明不足と感じる点が多々見受けられ、やむを得ず綻びをそのままにしてリリースしたことを匂わせる不完全な作品です。言ってみれば、古着をなんとか他所着に誂えたかのような危うさを秘めています。ここに、製作時間の厳しさから不完全な作品となった、往年の名作さながらの類似点を見出してしまうユーザーもいるかもしれません。
◆◆◆シナリオについて◆◆◆
形の悪い野菜は美味い。そんなことを頭の片隅に思い浮かべてしまうほど、不恰好なシナリオが不思議と魅力的です。
最初は断片的だった物語が、ある地点を境に徐々に繋がっていき、綺麗とは言わないまでも、物語として読める内容ではある……うん、“ではある”なんです。なぜこのような含みを持たせたかと言うと、これがまあしっくりこない箇所がいくつかありまして、伏線の回収は思った以上に大味という読後感を覚えたからであります。
作中では、さして気に留めなかった部品が、フィナーレに差し掛かるにつれて重要な歯車の一つのように思えてきたのです。僕の好奇心の鎌首が一気にもたげられるも、実はその部品は、“なくても一応は周る歯車”なのでした。そして、部品に触れられずに、あっさりと物語を読破してした時のがっかり感といったら!!ここらへんが惜しいですね。
このように、如何せん不完全燃焼の感は拭えませんが、破綻することなく物語として成立していると思うので、そこはご安心召されませい。
ライターの伏線回収能力はお世辞にも高いとは言えませんが、プレイを終えて、その大雑把さも作品の魅力の一つだと考えるようになりました。でなければ、蜂の巣をつついたかのような百家争鳴の事態など引き起こされなかったに違いありませんから。怪我の功名というヤツでしょうか。
◆◆◆“選択肢”に一石を投じる意義◆◆◆
なんだかんだと活発に議論が飛び交っている本作ですが、僕はこの作品を出したこと、行為そのものに意味を見出したユーザー……の一人であります。
もう当たり前となって久しいので、僕自身の感覚も麻痺しているのかもしれませんが、巷には“選択肢”によってヒロインを選ばせるエロゲーが氾濫しています。その大半は、お目当ての二次元美少女を“攻略”するための選択肢で、これ以上の意味は殆どありません。
まずは共通ルートがあって、それから個々のヒロインのルートがあって、個々のフィナーレがあって、クリア後にグランドルートやらエクストラルートが追加される。
ユーザーも、この構図をテンプレートとして何も疑問に思わず半ば慣習化しており、受け手としての評価も、共通ルートの評価、個々のルートの評価、隠しシナリオの評価といったシナリオ評を中心に、ビジュアル面とボイスと音楽などといった紋切り型の評価に行き着いてしまいがちな現状。これを憂う人もいますが、おそらくごく少数でしょう。
マルチシナリオがデフォルトとなって久しいがゆえに、ユーザーの芯から外れるアウトローは、奇妙なものとして好奇の目に晒されるか、異物として嫌悪されてしまいます。
この作品はまさにアウトロー。
仮にですね、キーワードの部分が選択肢であったとしても、もっと言えば選択肢がなくとも、この作品は物語として成り立つと思うんですよ。それが、なぜこうも七面倒なことをさせたかを考えますと、形振り構わず一世を風靡する“選択肢”の帝国に、一石を投ずることが目的だったのではないか。そういう結論に行き着きました。
◆◆◆システムについて◆◆◆
システムの欠点については、他の方も指摘している通り、大いに難があるように見受けられますが、その問題よりも、先ず、その存在をこそ認知されるべきと思います。
言わずもがな、「運命量」と「キーワード」という本作の根幹を成すシステムです。これは不必要というより未完成ゆえに不要だと思える代物で、非常にアクが強いシステムと言って差し支えないでしょう。
というのは、一般的な“選択肢”が該当するヒロインと結ばれる正解への道であるのに対し、本作で用いられた“キーワード”は、迷宮を抜け出る唯一の方法でありながらも、運命量の枯渇というトラジディ(ユーザー視点での一種のゲームオーバー)を引き起こす純然たるファクターとして、ユーザーの前に立ちはだかっているからに他なりません。これはもはや、物語“選択”の概念を超越していると言ってもいいでしょう。
つまりこの作品のキーワードは、選択肢の代替物ではなく、全く異質のものだと言う事ができます。
システム関係の話題をすると、必ずと言っていいほどポストXという話が出てきますが、この作品を、elfでもなく、KIDでもなく、まして同人でもなく、いちエロゲーブランドであるYatagarasuがリリースした事には、決して少なくない意味があると思ってます。もしこれをelfやらKID(もう存在しませんが)あたりが製作したとしても、「再来」やら「復活」といった従属的な賞賛の嵐で、作品に無用な色眼鏡を被せてしまうからです。同人界隈で、その炎を消さずに声高に叫ぶのも、また至難の業だったのでは愚考いたしますがいかがでしょうか。
Yatagarasuがやったことは、金城湯池に等しい現況のシステムを崩すのに、単身竹やりで乗り込んでいくようなもの。さぞ大博打であったことでしょう。
僕は当初、「推理ゲー」の一種として受け取っていました。しかし、幾度か運命量の枯渇を招いてしまったことで、その類ではないことに気づき、これまでの先入観と経験を捨て、子供だましでもやらされるような感覚でこの作品をプレイしました。
そうすると、今度はシステムの粗さが浮き彫りになってきました。僕が難しく考えすぎなのかもしれませんが、願わくば、選択肢システムに染まっていないビギナー諸兄の反応を聞いてみたく思います。
◆◆◆システムに対する初歩的なミス◆◆◆
というのは僕の我侭なのでこの際捨て置くとして、残念なことに、このシステムは初歩的とも言えるミスを犯しています。この物語のルールに準じれば、この複雑怪奇な迷宮を脱出するための単語が、悪い意味で限定されすぎていた気がしてならんのです。
具体的に何が問題かと言いますと、キーワードの使い勝手の悪さに集約されてしまうシステム面での不親切です。作り手が用意した「正解」と、ユーザーが思いついた「正解」との間に齟齬があるため、ユーザーから見ると、非常に不親切な問答を意識させてしまうのです。僕が思うに、ここが、この作品における最大の泣き所ではないかと思います。
その例を二つほど挙げてみます。
まず1つ目です。作中にて、電話を取らなければならないシーンがあるのですが、ここで投げつけるワードが「取る」ではなく「携帯電話」でなければならない理由はどこにもありません。「電話は取られれば使われる」しかないのですから、「人が電話を“取る”」ことに、なんら問題はないはずなのです。
次に2つ目。実際問題として「ケーキ、食べないの?」と聞かれて「食べる!」もしくは「食べないよ…」と答える人はいても「ケーキ!」と答える人はあまりいませんよね。しかし、この物語世界では「ケーキ」を選択するのが断固としたルールとして形成されておりまして、実際にキーワードの語録には「食べる」という動詞は存在しません。作中では、
美月「じゃあこうしようか。どっちかが店を見ておくってことで」
行人「つまり休憩ですか」
美月「そゆこと。どうする?」(原文まま)
という流れにまで進展するにもかかわらず、答えは一貫して「ケーキ」でしかありません。正解か不正解かという問題ではなく、ここでも「取る」という答えは、答えになっていない(運命量を消費するだけ)と一蹴されてしまいます。「アルバイト」もこれと同様です。
とまあ、ところどころにこのような出鼻を挫かれる設問がありまして、こいつらが理不尽さを助長している首魁ではないかと愚考します。
話は変わりますが、『千夜一夜物語』の中に「アリババと40人の盗賊」という話があります。この作中に登場する「開けゴマ!」という呪文は、誰もが子供の頃に聞いたことのある文言だと思います。「開けゴマ!」と唱えれば、宝物庫への扉が開かれるというのは、もはや周知の事実でしょう。
閑話休題になりましたが、このゲームでは、「開けゴマ!」にあたる単語を投げつけても、物語の扉が開かないパターンが少なからずあります。つまり、「○○を××したい」という意志があって、それに当てはまりそうなキーワードを投げつけても、魔法が「発動」しないことが儘あるんです。これには、多くのプレイヤーが「なんで?」って感じることでしょう。もっとも、字面で説明するよりも実際にプレイしたほうが分かりやすいのですが、とにかく後々まで運命量のロスが響くため、思った以上に理不尽なシステムとなっています。こうして、事あるたんびに、リエーブルマン男爵の無駄に長い口上を聞く羽目になり、ストレスを溜めてしまうのは、僕自身とてもつらかった。
◆◆◆不思議の国のアリス◆◆◆
ところで、キーワードを投げつけるシステムそのものは、随分前に出た「不思議の国のアリス」の感覚に近い気がするんですよ。……いや、ルイス・キャロルご本人の原作小説ではなく、マイクロキャビンが出したゲームのほうです。場面をひとつふたつ例に取ると、
―――ウサギと出会ったから“talk rabit”と打ち込む。するとウサギは挨拶してくれる。今度は、ドアを開けるために“open door”と打ち込む。さあ、ドアが開いたゾ! 今度は家の中に入るために“enter house”と打ち込もう。
―――テーブルにBOTTLEとKEYがあるんだけどどうしよう。“TAKE KEY”……よしよし、鍵を取ったゾ! BOTTLEの中に何が入ってるか気になるので“LOOK BOTTLE”と打ち込む……と、おやおや“DRINK ME!”なんて書いてあるじゃないか……ちょっと怖いけど飲んでみようかな、“DRINK JUICE”………キャーーーーー....(はぁと
という風に、物語が進んでいきます。
かたや「古色迷輪舞曲」は、
―――「廊下」に出てみよう。そしたら「階段」を下りてみよう。あ、舞さんがいる。「古宮舞」に声をかけてみよう。えーと、何を伝えるんだったか…………思い出したぞ、「懐中時計」のことだ!!(ここでリエーブルマン男爵に登場されてしまう人も多かったとみる)
という風に物語は進んでいきます。
よく似てませんか?
先ほど、このゲームが従来の選択肢とは一線を画しているという風なことを申しましたが、どちらというと、本作のキーワードシステムというのは、「不思議の国のアリス」に見られるような、タイピングやナゾナゾに近い感覚をユーザーは有していると思うのです。ただ、そのタイミングや答えとなりうる単語が、致命的なまでにユーザーと製作側でズレている。これこそが、最大のトラジディだったと思いますね。
僕は、この作品を突発的な先祖がえりだと思ってます。おそらく、この作品をもっともっと遡らせ、声はおろか絵すら取り除いていけば、おそらく「不思議の国のアリス」に行き着くことが可能でしょうから。
もっとも、キーワード&フローチャートシステムの説明の仕方が下手(今年度のシステムでは不親切度ナンバーワンです)で、チュートリアルが何の役にも立たないことから考えても、現代風にカスタマイズされたとは到底言えないのが惜しいところです。フローチャートのマズさと併せて、キーワードを求める明確なタイミングと語彙の齟齬はどうにか是正すべきであると思われます。
◆◆◆結び◆◆◆
粗はあるけれども、この作品の存在は、これから先のクリエイターに影響を与えるかもしれません。都合のよい選択肢に冒された脳に対する、一つの特効薬として、その先鞭をつけた可能性はゼロではないように思いました。
今後のYatagarasuの動向に注目しましょう。選択肢ともどもエロゲー界隈をせんたくしていただけることを願って。
【雑記】
ユーザーがああだこうだと白熱している議論の全てが、作者の掌にあるという可能性はまだ拭えません。答えを暗に提示していない可能性は、まだ残り続けていますから。こればっかりは、作者の口から直接聞くしかありません。
クオリアや世界に関する議論につきましては、僕はなるべく触れないようにしています。というのは、この作品のシステムが未完成だと思うからです。もし全ての疑問に明確な答えがあるのならば、その時は、紅茶を友に物思いに耽りたいものです。