のレビューです。引越し後一発目。ようやく落ち着いたのでキーボードと向き合うことができました。
机と椅子を新調したので、いい感じのプレイ環境が整いました。ま、私事はこれくらいで。
拙文ですが、参考になれば幸いです。
平易さ、適度な長さ、テーマ曲が三種の神器。肉食系というテーマそのものに竜頭蛇尾の感あり。いくつかの実験的な試みを配しながらも、手短かに纏めて冗長性を野放しにしない手堅さも兼備。商業ならではの普遍的エロゲー。
◆シナリオ◆ ○
雪仁氏、モーリー氏、矢行明氏のお三方が担当。先のお二人は波風の立たないハッピーエンドゲームで、専らクレジットを見かける印象。手がけた作品の世評から察するに、いちゃラブに一日の長があるのは明白。比較的プレイ時間を食わないうえ、ラノベ調でギャグテイスト強めの物語とあって、とっつきやすさは折り紙つき。読みやすく、理解しやすく、面白おかしい。ぎっしりと実が詰まっていないぶん、気負わずに物語を追える。シリアスは皆無で、ビギナーにはうってつけの内容。
主たるテーマは肉食系女子。“LOVERESSIVE”という造語のとおり、恋愛に対してとことん積極的なヒロインを描く。共通ルートではその奔放性が遺憾なく発揮されているが、結ばれる前後から、若干しおらしくなってしまうのが玉に瑕。付き合うまでが肉食系女子の本分だったようだ。肉食系を掲げているからには、特徴的な選択肢システムを利用せずともその獰猛さを最後まで描ききってほしいところ。なお、物語が進むにつれてダレる可能性はきわめて低い。物語の平易さ、適度な長さは大いなるアドバンテージ。この幹は実に太い。
◆グラフィック◆ ○
季月えりか氏、さより氏、綾海しろ氏、りいちゅ氏(SD原画)。(こう言っては失礼だが)新ブランドらしく、比較的気鋭に富んだ人選。視覚的にはSMEEの塗りに近しいCGづくりで、立ち絵とCGの出来には人によって若干のばらつきが見られる。ここは後々底上げが必要となってくるだろう。さより氏は一目置いている原画家さんなのだが、この方は複数原画でやるよりも単独で仕上げたほうが断然評価される画風だと思う。
パートアニメーションは不要。立ち絵をどうにかして動かそうという試みは汲み取れるし、その努力を無碍にするのは心苦しい。だが、完成度と意欲はまた別の問題。お世辞にも満足するレベルとは言いがたいため、不要なものと評価させていただく。
◆システム◆ ◎
実験的な意味合いを少なからず含むコンセプトに注目。そのうちの一つ、「ラヴ・ジャッジメント」は言ってしまえば時限式選択肢。ヒロインの要求を呑む(キャッチする)ことも突っぱねる(リリースする)こともできるが、選ぶのにまごついていると強制的に要求を呑まされてしまう。肉食系女子の押しの強さを体感してほしいという、製作者側の意図が見え隠れする。なお、シナリオの構成上、真桜ルートに入るには他3人の誘いをリリースし続ける必要がある。これが意外と煩わしい。
もう一つのコンセプトであるツブヤッキーは、ゲーム内におけるツイッター風の演出。これは、「Strawberry Nauts」の“PIT”からスライドしたシステムと見ていい。「Strawberry Nauts」では外野の呟きを見て、優越感を感じることができた。これに対し、「ラヴレッシブ」ではヒロイン同士の呟きを見て、どことなく微笑ましくなれた。“外から内”へと様変わりしたと言っていい。ただし――「Strawberry Nauts」でもそうだったが――、新たなコメントが投稿されたからといって逐一見に行っていては、せっかくのライトな物語の流れが失われるというもの。テンポを阻害するツールとならないよう、時にはユーザー側が自制を心がける必要もあるだろう。
この辺は試みとしては面白いが、まだまだ実用的とは判断できない。改良の余地が大いにある。
◆コンフィグまわり◆ ◎
並。バックログ、既読・未読スキップ、ショートカットキーといったノーマルな機能は一通り取り揃えてある。セーブ数は80。シナリオの長さからしても十分すぎる数だ。あまりこれといった強みはないが、概ね無難なつくりと言える。さしあたって、プレイに支障は出ないだろう。
◆キャラクター◆ ★
個性的なキャラクター以上に個性的なサブキャラクター。とくに、ガルーダさんはヒロイン以上に強烈なパーソナリティーを発揮する。そのため、時に“ヒロイン喰い”の印象を受けた。もちろんヒロインの魅力が必ずしも低いというわけではないのだが、あまりにもガルーダさんのパンチが効きすぎて、時おり玲緒あたりがおとなしく見えてしまった。共通ルートの主役は、もしかしたらガルーダさんかもしれない。
◆エロ◆ △
昨今の標準レベルよりも下という印象。ビジュアルが濃いわけではないし、テキストが傑出しているとも言いがたい。ここらへんも肉食系一辺倒に染めてもらえれば、個別ルートのぬるま湯加減も多少は緩和されたのではないかと思う次第。連戦シーンはある程度頑張っているように見受けられるものの、総合的なエロ成分は薄味の域を出ない。
◆サウンド◆ ★
最も評価できる部分。オープニング曲はAiRI(元UR@N)が歌う「乙女心1000000%」。エンディング曲はPricoが歌う「シアワセジャックポット」。ともに隠れた名曲といった印象だ。AiRIやPricoの伸びやかな歌声が、作風にぴったりマッチしている。前者は直感的に名曲、後者は聴きこめば聴きこむほど名曲になれる名曲という感想を抱いた。新ブランドにしては、非常にいいセンスを持っている。
また、主題歌を除く各曲に“乙女”の二文字が入っているのも特徴的。コメディ調の曲が多い中、オープニングのピアノアレンジである「乙女桜満開」はなかなかの存在感。元々のメロディの良さが、音がピアノに変わってもそのまま活きている。曲数が少なく思えるが、ストーリーが明るめ一辺倒である以上、楽曲を増やしてもさほど大きな効果は得られなかっただろう。コンパクトだが、縁の下の力持ちとしては心強い。
◆総評◆ ○
「ラヴ・ジャッジメント」、「ツブヤッキー」。随所に野心的な側面を感じ取れるものの、どの種子も芽吹いていない印象。たとえ共通ルートで全力を出しても、個別ルートで息切れしてしまっては、作品の魅力も半減というもの。肉食系を前面に押し出してこそ、ユニークな作品になったのではないか。その意味では竜頭蛇尾であった。
作品最大の強みはシナリオ平易さ、適度な長さ、そしてサウンド周りのセンスの良さ。そのアドバンテージがあったからこそ、一定の評価は下せる作品。それゆえに次の作品ではプラスワンを求められることになる。「Strawberry Nauts」由来のシステムをどう咀嚼するつもりなのか。次が分水嶺となる。